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読書・アニメの感想とかを気が向いたら書くところ

江國香織「落下する夕方」

大分前に買って積んでいた江國香織の「落下する夕方」を読んだ。

8年間同棲した健吾から別居を告げられた梨香が、男の恋する華子と同居する奇妙な話。

友人である勝矢の奥さん(カツヤノカナイ)、同僚の結婚はどこか遠い世界のように梨香は見る。

概して人間らしくない華子という媒介を通じて健吾と触れようとするする前半の梨香。

依存を脱していき、終盤には健吾から華子と共に湘南の華子の別荘に逃げ出す。

別荘に残った華子は自殺し、梨香はラストで健吾と同棲したマンションを離れることを告げる。

モトカナイとなったカツヤノカナイの生々しい現実感に触れた後の梨香は、

「いつか、もしいつか健吾が現実の誰かを必要としたとしても、私はそのとき、健吾の役に立てない。おなじように、健吾も二度と私の魂のよりどころにはなってくれないのだ。」

と思う。

ラスト、健吾の部屋に入る梨香。数ヶ月前は華子と出くわしたその部屋に踏み入れた梨香は「やっと地面を踏んだ気がした。かかとの高い靴を脱いで」。そして、「私は、現実のこちら側にいようと決めた。健吾にもいてほしいと願った。私の気持ちが健吾にとどいたかどうかはわからない。いずれにしても時間はすべりおちていくのだ。私たちのまわりを。」と述べられる。

江國香織さんの心のすきまに入り込んでくるような言葉遣いで述べられる梨香の心情描写が、恋人を諦めきれない心、そして離れゆく心を繊細に表現していた。